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第139回
Kelly Blue
Winton Kelly



ケリー・ブルー
ウィントン・ケリー
撰者:大橋 郁



Kelly Blue
Winton Kelly
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このアルバムは、歴史的名盤と云われ、多くの人に愛されてきた。しかし、好きになる理由には二種類の理由があり、ファンの間でも好みが別れることがあるようだ。
一方は、一曲目のタイトル曲「ケリー・ブルー」でのセクステット演奏でのナット・アダレイやボビー・ジャスパー、ベニー・ゴルソンらの張り詰めたソロのカッコよさを支持する一派。もう一方は、「朝日のごとくさわやかに」や「グリーン・ドルフィン・ストリート」などでのケリーの心地よくスイングするピアノ・トリオとしての出来に惚れ込む一派。もちろん、どちらも素晴らしいし、どちらも大好きという人も多い。

一曲目「ケリー・ブルー」の魅力は、一言で云って、空気がピンと張り詰めたような緊張感であろうか。実際、この曲が始まると何やら冷気で刺され、部屋の空気が2〜3度下がって透明度があがったような気分になる。熱っぽい演奏というのとはどこか違う。各ソロイストが演奏する間、バッキングをする面々はどこか冷静だ。例えるなら、澄んだ冷気の中に削(そ)ぎたった竹のような鋭さがある。

この曲は、B♭の12小節のブルースだ。テーマが2回提示された後、ピアノ⇒フルート⇒コルネット⇒テナーサックスと4人のソロが回される。最初の一音から惹きつけられ、聞くものの耳を捉えて離さない。ブルージーでしびれるくらいファンキーな演奏だ。個人的には、ナット・アダレイ(corn)のソロが最も印象的なのだが、ソロイスト達は、それぞれの持ち味で盛り上げ、リズム隊も反応して熱くなっていくようである。しかし、普通ならアドリブ・ソロは、自由に順番につながっていくが、「ケリー・ブルー」では、ソロイスト達の引継ぎの合間に、テーマをモチーフとした6小節のリフが必ず挿入される。ここでセクステットの面々の構えは、再び元の冷めた緊張感の中へとリセットされる。そして、また一から気を引き締めて元の雰囲気に戻って新たに次のソロが始まる。最後にまたテーマが2度演奏されてこの曲は終わる。

こうしてテーマの印象的なフレーズを軸としたピンと張り詰めた空気が、最初から最後まで一貫して支配している。そのようにして聞き手に対して、ひとつのファンキーな雰囲気を一気通貫で感じさせるように仕組まれているのではないだろうか。ケリーのピアノは、特に一曲目の「ケリー・ブルー」と2曲目の「朝日のごとくさわやかに」で、まるでボビー・ティモンズのようにファンキーに弾いている。



ところで、この「ケリー・ブルー」という曲は、実はカバーしている人がほぼ皆無である。ウィントン・ケリーによる演奏の印象があまりにも強すぎるというか、オリジナルの雰囲気が決定的過ぎて、カバーがほとんど不可能なのである。
例えば、「ケリー・ブルー」の演奏メンバーにも入っているベニー・ゴルソン(ts)作曲による「アイ・リメンバー・クリフォード」という名曲がある。天才トランペッターのクリフォード・ブラウンが1956年に交通事故死した際に、ベニー・ゴルソンがショックを受け、翌1957年クリフォードを追悼して書いたバラードの名曲だ。この曲は多くのアーティストに愛され、スタンダードとなってカバーされている。リー・モーガン(tp)、ディジー・ガレスピー(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、スタン・ゲッツ(ts)、オスカーピーターソン(p)、バド・パウエル(p)と錚々たる人たちがカバーしている。
ビル・エバンス(p)の書いた「ワルツ・フォー・デビー」も、ソニー・ロリンズ(ts)の書いた「セント・トーマス」も同様に、スタンダードとなって多くのカバー演奏がある。

しかし、「ケリー・ブルー」はこれだけ多くの人に愛されながら、他のミュージシャンによるカバー演奏を探すのが難しい。それはウィントン・ケリーによる演奏があまりにぶっ飛び過ぎていて、他のミュージシャンが「ケリー・ブルー」を演奏したら、それは丸コピーになってしまうか、仮にこれを超える演奏をしたとしたら、それはもう「ケリー・ブルー」では無くなってしまう可能性が高いからであろう。



話は変わるが、マイルス・デイヴィス(tp)による不朽の名作「カインド・オブ・ブルー」というアルバムがある。1959年2月〜4月の録音だ。1959年初頭、ウィントン・ケリーはレッド・ガーランドの後釜としてマイルス・バンドに参加する。そして、まさしくその時期に録音されたのがこの「ケリー・ブルー」でもあるのだ。
当時のマイルス・バンドのリズム・セクションであるポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(dr)を迎えたトリオによる4曲は1959年3月20日に収録。また、ナット・アダレイ(cor)、ボビー・ジャスパー(fl)、ベニー・ゴルソン(ts)を加えたセクステットによる2曲は1959年2月19日に収録されている。

これら2枚のアルバムの録音日を時系列的に並べてみると、2つのアルバムはそれぞれ2日間をかけて録音されており、それらの録音は下記のように挟み合うような日程になっていることがわかる。

【59年2月19日】
「ケリー・ブルー」の中のセクステットによる演奏2曲(ケリー・ブルー、キープ・イット・ム−ヴィン)

【59年3月2日】
「カインド・オブ・ブルー」の1回目のセッション(3曲を録音)
(「フレディー・フリーローダー」1曲でのみウィントン・ケリーがピアノを弾く)

【59年3月10日】
「ケリー・ブルー」の中のトリオによる演奏4曲
(朝日にごとくさわやかに、グリーン・ドルフィン・ストリート、ウィロー・ウィープ・フォー・ミー、オールド・クローズ)

【59年4月6日】
「カインド・オブ・ブルー」の2回目のセッション(ピアノはビル・エバンス)

マイルスの「カインド・オブ・ブルー」といえば、マイルスがモード手法を完成させた名盤として有名だ。
ブルース形式の「フレディ・フリーローダー」では、ウィントン・ケリーがピアノを弾くが、他のモードっぽい曲では、ビル・エバンスがピアノを弾く。これはケリーが、ビル・エバンスに取って代わられた、と考えるのが自然だろう。

ちなみに、ポール・チェンバース(b)とジミー・コブ(ds)は両方のアルバムに参加しており、キャノンボール・アダレイ(as)は「カインド・オブ・ブルー」に参加、弟のナット・アダレイ(corn)は「ケリー・ブルー」に参加している。「フレディ・フリーローダー」は、「ケリー・ブルー」同様にB♭のブルースなのだが、ウィントン・ケリーのピアノ・ソロ部分は、ベースとドラムも「ケリー・ブルー」とまったく同じ3人による演奏でテンポもほとんど同じであり、この部分だけを聞くと、どちらが「ケリー・ブルー」か、一瞬わからなくなるくらいに似ている
60年代はモードの時代となっていくのだが、その前夜、ほとんど同じ日程で、それも似通ったメンバーによって、新時代と旧時代を代表するような2つの大名盤が、同時に生まれていたことになる。



ケリーは1931年生まれとのことだが、資料によってジャマイカ生まれとするものもあれば、ジャマイカからの移民の子としてニューヨークのブルックリンで生まれたとする説もある。諸説あるようだが、いずれにしてカリブの血を引いていて、ほぼブルックリンで育ったのは確かなようだ。
ケリーは、カリブ海周辺を巡演するなどツアーで演奏したり、自分の娘の名前からとった「リトル・トレイシー」というカリプソ風の曲を録音するなど、随所に出自を思わせる足取りがある。
ベーシストのマーカス ・ミラーや、ピアノのランディ・ウェストンとは従兄弟だそうだ。

28歳の時に「ケリー・ブルー」を発表したウィントン・ケリーは、1971年てんかん性発作の為、 カナダのトロントで39歳で亡くなっている。 
若くして泉下の客人となったウィントン・ケリーの残したアルバムは、決して多くないが、マイルストーン・レーベルに残した「フル・ビュー」やヴァーヴ・レーベル録音の「イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー」など、楽しくスイングする作品は多い。その中でも「ケリー・ブルー」は金字塔のように、光り輝く存在のひとつである。


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