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さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
媚びないジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。

第94回
A Night At Boomers,Vol.1
Cedar Walton



ナイト・アット・ブーマーズ、Vol.1
シダー・ウォルトン
撰者:松井三思呂



A Night At Boomers,Vol.1
Cedar Walton
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73年になって迷いが振り切れたように、シダーはその実力を遺憾なく発揮したアルバムを発表それがこのアルバム。私が思うには、このアルバムがこの後の快進撃のきっかけとなった作品だ。




A Night At Boomers,Vol.2
Cedar Walton
【Amazon のディスク情報】

ブーマーズでのライブ、Vol.2。




Kimiko Is Here
笠井 紀美子
【Amazon のディスク情報】

このピット・インでのライヴ録音は、笠井紀美子凱旋コンサートのツアー最終公演で、それまでに15公演をこなしてきていて、笠井とトリオの間の息もぴったりというところ。その辺の躍動感は裏ジャケのカヴァー写真が物語っている。




Sadao Watanabe At Pit Inn
渡辺 貞夫
【Amazon のディスク情報】

このライヴは、前々日に笠井紀美子の最終公演、前日に自己のトリオでのライヴと多忙を極めていた。加えて、音合わせの時、マウスピースが気に入らなくて、ナベサダが本番前に別のマウスピースを自宅まで取りに帰ったという逸話も残っている。このような厳しい状況であったが、結論から先に言えば、演奏は超一級品である。



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夏本番! 暑中お見舞い申し上げます。

今回は前回に引き続き、シダー・ウォルトンをもう少し掘り下げてみたいと思います。
まず、前回のコラムで触れることができなかった彼のジャズミュージシャンとしてのキャリアから、コラムを始めることにします。


シダー・ウォルトンにとって、74年末の日本ツアーは通算4回目の来日で、あいミュージックがプロモートした笠井紀美子の凱旋コンサート(12月2日〜25日の間で16公演)の伴奏が目的であった。
過去3回の来日は、63年1月、64年11月、73年2月。このうち、63年と73年はジャズ・メッセンジャーズのメンバーとして来日している。
村上春樹氏の『意味がなければスイングはない』によれば、63年の初来日時、彼は中学生であったが、なんと神戸で催されたメッセンジャーズのコンサートに出掛け、シダーの演奏を聴いている。

シダー・ウォルトンは、1934年テキサス州ダラス生まれ。
母親がピアノ教師で、子供の頃はクラシックの勉強をしていたらしい。

デンヴァー大学の音楽科に3年在籍した後、1955年にニューヨークに進出。
2年間の兵役を経て、同じテキサス人であるケニー・ドーハムのバンドに参加する。この頃の彼のピアノは、ケニー・ドーハムが全編にわたりヴォーカルを聴かせる珍(迷)盤『ディス・イズ・ザ・モーメント』(Riverside RLP12-275)や、キャノンボール・アダレイがゲストの『ブルー・スプリング』(Riverside RLP12-297)など、ドーハムのリーダー作で聴くことができる。

その後、J・J・ジョンソンのバンドなどを経て、1961年の夏、ボビー・ティモンズの後任ピアニストとして、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズに迎えられる。
そして、ジョン・ヒックスにその座を譲るまでの3年の間、この名門コンボで演奏を続ける。

シダー入団時のメッセンジャーズのメンバーといえば、フレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、ウェイン・ショーター(ts)の三管に、シダー・ウォルトン(p)、ジミー・メリット(b)、御大アート・ブレイキー(ds)。
シダー・ウォルトンの加入は、メッセンジャーズのフロントを二管から三管編成に増強するメンバー交代の時で、フレディ・ハバード(リー・モーガンの後任)とカーティス・フラーが同時期にメッセンジャーズに加わっている。

この時期、メッセンジャーズの音楽監督はウェイン・ショーターであったため、グループにおけるシダーの立ち位置には微妙なものがあったように思える。そう考えるのも、ミュージシャンとしてのキャリアと知名度はメンバーのなかで最も低く、フロントの3人は既にリーダーアルバムを出していたからだ。

もしかすると、シダーとブレイキー、ショーターの間で、『仁義なき戦い』風にこんなやりとりもあったのかもしれないと想像してしまう。




「ブレイキー親分、イカした曲ができやした。来週のバードランドのライヴで演って、客の反応が良ければ、次のアルバムに入れやしょうぜ!」

「シダーよ! オメエもこれだけは腹に落としとけよ。オレは人の和には口を挿むが、シノギのことは若頭のショーターに全部仕切らせてるんだ。この世界もモードとか、フリーとか、新しい風が吹いてるんだよ。日本じゃあ、「モーニン」や「ブルース・マーチ」で大ウケだったけど、ニューヨークじゃあ、もうファンキーだけではシノゲない。そのために、カーティス・フラーにも盃をやって、ウチの組に入れてんだ。それもショーターが口添えしてくれたのよ。だから、オメエの作った曲のことは、まずショーターに話を持っていくのが、スジっていうもんだろうよ!」

そこで、ショーターにお願いするも・・・。
「ショーター兄貴、イカした曲ができたんですが・・・。」

「兄弟、オメエの曲もイイんだけどよぉ〜、オレ、それどころじゃない訳よ。若頭任されて、シノギのことで苦労してんだよ。フラーに組に入ってもらって、新しいこと演りたいところ、ブレイキーのオヤジは何にも言わないけど、アルフレッド・ライオンのオッサンがぐちゃぐちゃとややこしい。あのオッサン、未だにファンキーを演らせたいみたいなんだよなぁ〜。まあ、これまでの事もあるから、オッサンをあまり袖にする訳にもいかねえし。落とし所つうのかな、その辺もあってよぉ〜。
それと、ここだけの話だけどな、マイルス・デイヴィスのオジキから、『いずれはオレの組に来ないか』って、誘われてんだよ。オジキんとこは、シノギのでかさが違うしな。そんなこんなで、今ヘタはうてねえから、オメエも自分を殺して、オレを盛り立ててくれや!」

「わかりやした・・・、兄貴・・・。」
(注)上記のやりとりは完全に私の創作で、事実の根拠は全くありません。



というものの、メッセンジャーズ在団時のシダー・ウォルトンは、ピアノプレイが弾けまくっているわけではないが、持ち前の作曲能力を発揮して、いくつかの佳曲をバンドに提供している。
『モザイク』(Blue Note 4090)の「Mosaic」、『ブハイナズ・ディライト』(Blue Note 4104)の「Shaky Jake」、『スリー・ブラインド・マイス』(United Artists UAJ14002)の「Plexis」、『ウゲツ』(Riverside RLP12-464)の「Ugetsu」( 『ピット・イン』では「Fantasy in "D"」というタイトルで演奏されている)など。この時期から、彼の持つコンポーザーとしての資質は溢れ出していたわけだ。

しかしながら、64年にメッセンジャーズを退団後、シダー・ウォルトンは低迷期に入ってしまう。村上春樹氏の言を借りるならば、「安ギャラで便利屋的に使いまわされまくった。」

そして、ようやく67年に初リーダー作『シダー!』(Prestige 7519)をリリース。
その後、プレスティッジから69年までに合計4枚のリーダーアルバムを発表するが、どれも散漫な印象で、彼の実力を発揮した作品となっていない。特に、後の2枚はエレピでブーガルーやソウルのカヴァーを演っていて、ドン・シュリッテンのオーバー・プロデュースがいただけない。

ようやく、73年になって迷いが振り切れたように、シダーはその実力を遺憾なく発揮したアルバムを発表する。それが『ナイト・アット・ブーマーズ』のVOL.1(Muse 5010)。
私が思うには、このアルバムがこの後の快進撃のきっかけとなった作品だ。
そこで、今回のコラムはこのアルバムを本命盤として紹介する。



A NIGHT AT BOOMERS,VOL.1
(Muse 5010)
シダー・ウォルトン(p)、クリフォード・ジョーダン(ts)、サム・ジョーンズ(b)、ルイ・ヘイズ(ds)
1973年1月4日 ニューヨーク「ブーマーズ」でのライヴ録音

このアルバムが素晴らしい理由を挙げれば、ひとつにはクリフォード・ジョーダンの存在。
当時、シダーとクリフォード・ジョーダンは双頭リーダーのグループを組んで、このメンバーで活動を行っていた。なお、ドラマーについては、正式メンバーはビリー・ヒギンズであったようだ。
クリフォード・ジョーダンについては、吉田さんが第27回と第31回のコラムで、奇跡の作品『イン・ザ・ワールド』を採り上げている。クリフォード・ジョーダンの本質に迫った抜群の内容であり、是非そちらも参照願いたい。【リンク】

彼とシダー・ウォルトンとの関係は、59年にJ・J・ジョンソンのバンドで一緒に演奏したのがきっかけとなり、リヴァーサイドにおけるジョーダンのリーダー作のセッション(『SPELLBOUND』、『A STORY TALE』、『STARTING TIME』、『BEARCAT』)などを通じて、交流を深めていく。

もうひとつの理由は、ブーマーズというハコでレコーディングされたことだ。
ブーマーズはグリニッジ・ヴィレッジのブリーカー・ストリートで、71年から79年までの8年間、営業を続けたジャズのライヴハウス。
ジャケットのカヴァーに店の前でたたずむ3人の写真が使われているように、当時シダー・ウォルトン・トリオはブーマーズのハウスバンドであった。
当たり前と言えばそれまでだが、いつもの場所で、いつものメンバーと、いつものように、リラックスして演奏したことが、素晴らしい内容に結びついたということ。一応プロデューサーにドン・シュリッテンのクレジットはあるが、このアルバムは4人に完全にお任せ状態であったと思われる。
本作以降も、秀作と評価されているシダーのアルバムにライヴ録音が数多いことを考え合わせると、非常に示唆的で、シダー・ウォルトンというピアニストが見えてくる気がする。

『ナイト・アット・ブーマーズ』のVOL.1には7曲が収録されており、A面は「Holy Land」、「This Guy's In Love With You」、「Cheryl」の3曲、B面は「The Highest Mountain」、「Down In Brazil」、「St. Thomas」、「Bleecker Street Theme」の4曲。

アルバムの冒頭を飾る「Holy Land」はシダーのオリジナル。ファンキーの香りもただようゴスペル調の素晴らしいメロディで、大好きな曲だ。『ピット・イン』収録の「Suite Sunday」と甲乙付けがたい名曲。
メンバーのソロも非常にスリリングで、「これぞ、ハードバップ再興!」という印象だ。ソロオーダーは、ジョーダン、シダー、サム・ジョーンズの順、この曲だけでこのカルテットのカッコ良さにノックアウトされる。


クリフォード・ジョーダンのテナーサックスを言葉でどう表現すれば良いのだろうか。豪放なロリンズでも、包み込むようなゲッツでもないし、もちろん「シーツ・オブ・サウンド」のコルトレーン先生とは全く違う。あえて言うなら、少しくすんだイメージで、味わい深いブルージーな音色というところだろう。
しかし、ひとたびジョーダン・ワールドにハマり込むと、なかなか抜け出せなくて、クセになる魅力を持った人だ。

「This Guy's In Love With You」はバート・バカラックの作品。観客からのリクエストに応えて、ジョーダン抜きのピアノトリオで演奏されたもので、シダーのリリカルなタッチが印象的なナンバー。このように何でもできてしまうところが、「器用貧乏」という間違った評価を生みだしてしまったのかもしれないが・・・。

ところで、ライナーノーツにあるシダーへのインタビューを読むと、彼のピアノに対するこだわりを窺い知ることができる。
彼曰く、「総じて、ニューヨークのクラブのピアノはピアノ弾きには辛い。日本のピアノは素晴らしい。」楽器へのこだわりが、いかにも職人気質で、好感度アップだ。

「Cheryl」はパーカー曲、ここでもジョーダンのテナーが爆発するが、聴きものは終盤のルイ・ヘイズのソロ。
正直に言って、私はこれまで腰を据えて、ルイ・ヘイズの演奏を聴いたことがなかった。今回、じっくり聴いてみて、かなりの技量を持った人であることが判った。特に、ハイハットのキレが良く、シンバル・ワークが素晴らしい。

B面では、ジョーダン作の「The Highest Mountain」、曲名どおりボサノバ調の「Down In Brazil」も快調だが、3曲目の「St. Thomas」に興味を惹かれる。

やはり、どこかで『サキコロ』のロリンズ〜トミー・フラナガン〜ダグ・ワトキンス〜マックス・ローチの演奏と比較してしまう。 好き嫌いがあると思うが、私はリズム隊の比較では、シダーのトリオに一票。
リードのテナーについては、これはもうどちらかという次元の問題ではなく、ロリンズはロリンズ、ジョーダンはジョーダンなのである。
ジョーダンはインタビューのなかで、「コルトレーンのように演奏しないようにしようと思った」と、はっきり言っている。これに対して、この「セント・トーマス」だけではなく、ジョーダンはリーダー作でロリンズのナンバーをいくつか採り上げており、コルトレーンとは違って、ロリンズにはシンパシーを感じていたように思える。

アルバムの最後の「Bleecker Street Theme」は、『ピット・イン』でもラストに演奏されているが、ブリーカー・ストリートにあったブーマーズのクロージング・テーマとして使われていたものであろう。

ところで、この『ナイト・アット・ブーマーズ』にはVOL.2があり、私は長年探しているのだが、巡り会うことができない。ネットオークションでもあまり見かけない。
ミューズ・レーベルはキングが日本盤もリリースしていたので、それほどレアとは思わないのだが・・・。
レコードを集めていると、このように何の理由か判らないが、不思議と縁がないアルバムが出てくるものだ。



さて、このあたりで、『ナイト・アット・ブーマーズ』からピット・イン3部作に筆を進めたい。
まずは3連チャンの初日、『キミコ・イズ・ヒア/笠井紀美子』(CBS/SONY SOPN114)だ。



KIMIKO IS HERE
(CBS/SONY SOPN114)
笠井 紀美子(vo)、シダー・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)
1974年12月22日 新宿「ピット・イン」でのライヴ録音

このピット・インでのライヴ録音は、笠井紀美子凱旋コンサートのツアー最終公演で、それまでに15公演をこなしてきていて、笠井とトリオの間の息もぴったりというところ。その辺の躍動感は裏ジャケのカヴァー写真が物語っている。
ただ、トリオの伴奏はノリノリなのだが、そもそも私は笠井紀美子の声質があまり好きではない。ジャズ・ヴォーカリストとしての生命線である音程や歌唱力も?マークだ。
この後、彼女はハンコックやフュージョン系のミュージシャンとの共演アルバムをリリースしていくが、このアルバムのように4ビートでスタンダードを歌うことはあまり向いていないように感じる。
現在、彼女はミニー・リパートンの元夫でプロデューサーのリチャード・ルドルフと結婚して、カリフォルニアのサンタモニカに暮らし、宝飾デザイナーとして活躍しているようだ。

3連チャンの最後、『渡辺貞夫・アット・ピット・イン』(CBS/SONY SOPN113)は、74年のクリスマスイブ、トリオの帰国の前日にレコーディングされている。



SADAO WATANABE AT PIT INN
(CBS/SONY SOPN113)
渡辺 貞夫(as)、シダー・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)
 1974年12月24日 新宿「ピット・イン」でのライヴ録音

このライヴは、前々日に笠井紀美子の最終公演、前日に自己のトリオでのライヴと多忙を極めていたことから、ほとんどぶっつけ本番のステージだったようだ。
加えて、音合わせの時、マウスピースが気に入らなくて、ナベサダが本番前に別のマウスピースを自宅まで取りに帰ったという逸話も残っている。
このような厳しい状況であったが、結論から先に言えば、演奏は超一級品である。

収録曲はサム・ジョーンズのオリジナルである「Blues For Amos」を除いて、「Body And Soul」、「Softly, As In A Morning Sunrise」、「Oleo」、「Blue Monk」と、ハードバップ・スタンダードのラインナップ。
このなかでは、私のお気に入りは、「Softly, As In A Morning Sunrise」と「Oleo」。アップテンポに乗って、4者の繰り広げるインタープレイに心躍る。

今回のコラムで紹介したアルバム以外にも、この時期のシダーのグループには名作が多い。
ここではタイトルだけの紹介にとどめるが、クリフォード・ジョーダンに代わってジョージ・コールマンが弾ける『EASTERN REBELLION 1』(TIMELESS MUSE TI306)、ジョージ・コールマンに代わってボブ・バーグが弾ける『EASTERN REBELLION 2』(TIMELESS MUSE TI318)。
また、この直前のコラムで大橋さんが詳述していたカフェ・モンマルトル〜スティープル・チェイスのシンジケートにも逸品を残している。『EASTERN REBELLION 2』と同メンバーで、77年10月1日、コペンハーゲンのカフェ・モンマルトルにおける3セットのギグをそのままアルバム化した『FIRST SET』(Steeple Chase SCS1085)、『SECOND SET』(Steeple Chase SCS1113)、『THIRD SET』(Steeple Chase SCS1179)。



とりとめがないことをグダグダ書いてしまいましたが、ともかくシダー・ウォルトンという人、素晴らしい技量と、キャッチーなメロディの曲が書ける類まれなる作曲能力を持った人です。
もし、読者のみなさんで、聴いたことがないという方がおられたら、入手困難な音源も少なくないですが、是非聴いてみてください。
私もお楽しみがまだまだ残っているみたいなので、彼の録音をボチボチと集めていくことにします。



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