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さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
媚びないジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。

第84回
Talk To My Lady
Gene Russell



トーク・トゥ・マイ・レィディ
ジーン・ラッセル
撰者:平田憲彦



Talk To My Lady
Gene Russell

【Amazon のCD情報】

ブラックジャズ創設者、ジーンラッセルのリーダー作。ブラックジャズでのリーダー作としては2枚目で最後のアルバム。ファンク、ソウル、モードジャズをミックスさせたジャズサウンドで漆黒のグルーヴを次々を送り出したレーベル、ブラックジャズの名盤。

1. Talk To My Lady
2. Get Down
3. Me And Mrs. Jones
4. For Heven 's Sake
5. You Are The Sunshine Of My Life
6. Blues Suite
7. My Favorite Things
8. If You Could See Me Now

Gene Russell(ep, p)
Henry Franklin(b)
NDUGU(ds)
Calvin Keys(g)
Charles Weaver(cga)
Eddie Gee(tambourine)

録音:1973年
ロス・アンジェルス(米国カリフォルニア州)
レーベル:Black Jazz



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1: Talk To My Lady

アルバムのタイトルトラックは、モードジャズ的リフ主体で始まるセッションライクな一発。冒頭のトラックにふさわしいキャッチーな掴みがノリノリのグルーヴで押し寄せてくる。知らず知らずのうちに膝が揺れ、気がついたらギターに手が伸びていて一緒に弾いてしまう、というくらいの強烈なファンキー&ソウルブルースジャズである。基本的に、このアルバム全体のトーンを決定づける1曲であり、この世界観がアルバムの通底を成していると言って良い。

ジーン・ラッセルの転がりまくるエレピは昇天しそうな鍵盤さばき。弾いている本人が乗りまくっているのがよくわかる。 そしてそれを上回るくらいのノリでうねりまくるのが、ヘンリー・フランクリンのベース。これはもう、リズム隊を逸脱してどっちがソロを弾いているのか分からないくらいのミクスチャーぶりである。ブンブン跳ね回り、びよ〜んと震えが感じられるベースの弦が見えるようなリアリティが強烈。ドラムのNDUGUも変態的ドラムだが、これでもかと言うくらいのシンコペーション、絶妙なリズムと笑ってしまうくらい気持ちいいショットが続けざまに押し寄せてきて最高。

2: Get Down

イントロからゴリゴリでビンビンのベース。俗に言う『コテコテ』はまさにコレ。この2曲目も、1曲目に引き続きモード的だがノリノリなソウル&ブルースジャズ。遠慮というものを知らない圧倒的なファンキー地獄で悶絶。このナンバーでは、ラッセルはアコースティックピアノだが典型的なファンキーピアノ。しかし、ここでもぶっといフランクリンのベースが、底なしのダンサンブルなファンクブルースに我々を引きずり込む。仕事中に聴くと踊り出すので危険。

3: Me And Mrs. Jones

あの名曲中の名曲を、ブンブンとうなるベースが引っ張る。とろけてしまいそうな甘いサウンドに堅く図太い芯を通すフランクリンのベース。あおりまくるNDUGUのドラム。しかしあくまでもメロウに優しく弾き続けるラッセルのエレピ。しびれる。かわいいあの子と一緒に聴きたい、というようなナンバー。テーブルの上にはチーズとワイン。部屋は暗くしておいてくださいな。

4: For Heven 's Sakev

さらにメロウトーンへ落とそうというナンバー。ここまでくると、『エロ』というのが最も分かり易い表現だろう。もう引き返すことが出来ない甘い夜を二人で過ごす時のサウンドとして、これ以上のナンバーは考えられない。1時間フルリピートで大丈夫というくらいの、めくるめくスウィート&ラブリーなエレピトリオ。でも、フランクリンはここでも太いベースを弾きまくるので、甘さに流れず芯がビンビンに効いている。ヤバイ音とは、こういう音。

5: You Are The Sunshine Of My Life

コレが来るか。そう来るか。と、なんとなく納得してしまう流れでいきなりスティービーの大名曲がエレピサウンドで軽快に登場。心持ちラテンフレイバーをまぶされたデザートのような1曲で、ラッセルの甘いエレピで緩みまくり。ここでのフランクリンは大人しくビートを刻むが、これはたぶんフェンダーベースだろう。
このアルバム、冒頭からビンビンのファンク&ソウルブルース・ジャズでぬかるみにはまってきた我々は、滑り落ちた甘くセクシャルな世界から目覚めて太陽に出会うのだ。カリフォルニアの青い空、美しい海、心地よい風に吹かれて戯れるのである。『他には何もいらない。ただ、君がいてくれたらそれでいい』なーんてセリフも普通に口に出来そうな好演。気持ちいい。

6: Blues Suite

再び漆黒、真っ黒け。重く気怠いブルースへようこそ。アコースティックピアノがフランクリンの太く揺れまくるベースに乗って怪しげなグルーヴで迫ってくる。禁欲的なNDUGUのブラシはピアノとベースをこれでもかと前に押し出す。しかしここでもフランクリンのベースはスゴイ。ベースを弾いてる人は必聴だろう。ベースはここまで弾いてもいいんだよ、とフランクリンは言ってるかのようだし、むしろラッセルがけしかけたんじゃないかな。そういう意味では、リーダーである自分のピアノを凌駕してしまいそうな強烈ベースを求めたラッセルはエライ。この曲を聴いていると、トリオのアンサンブルとは何か、ということを心ゆくまで堪能できるし、演奏者であれば学ぶことは多いだろう。

7: My Favorite Things

ハイライトである。このナンバーが、レーベル創設者ジーン・ラッセルの、ブラックジャズ最後のリーダーアルバム『Talk To My Lady』を飾るハイライト・トラックだ。もはやあらゆるジャンルを超えて知られる歴史的有名曲『My Favorite Things』。もちろん、この演奏の土台となっているのはコルトレーンのバージョンであることは誰が聴いてもわかると思うが、ラッセルがエレピで弾きまくるこのナンバー、フランクリンもNDUGUもサウンドコラージュのように鬼気迫る熱演を繰り広げている。ここでもフランクリンがすごい。もしかするとこのアルバムはフランクリンのアルバムじゃないのか、と思ってしまうくらいのパッション。インプロヴィゼーションというよりは、もはや格闘技と呼べそうな熱血ナンバー。

8: If You Could See Me Now

美しい。ラッセルの独奏ピアノ。そしてラッセル自身が朗読する。甘く太く、深い声にうっとり。しかし、なんとなくこの朗読は歌本来の意味と逆の印象を感じてしまう。なぜだろう。本来の唄は、失った愛を取り戻したいと願う歌なのに、ここでのラッセルの歌い方はむしろ自ら別れを切り出そうとしているかのようだ。
これを聴くたびに私は、パーラメントの『Mothership Connection』を思い出す。ジョージ・クリントンが漆黒のグルーヴに乗って語りかけるメロウトーン。クリントンはこのラッセル版『If You Could See Me Now 』を聴いたに違いない。リベラルな意志で活動していたラッセルのブラックジャズを、同じくリベラルなクリントンが聴いていなかったとは考えにくい。それほどに、ここでのラッセルの朗読とクリントンのそれとは繋がっている。



今回紹介したジーン・ラッセルのアルバム『Talk To My Lady』は、米国で1970年代に活動していた『ブラックジャズ』というマイナーレーベルからリリースされた。

『ブラックジャズ』は、1970年代初期にカリフォルニア州オークランドで誕生した小さなレコードレーベルである。設立はジーン・ラッセル。様々なタイプのミュージシャンで構成されているが、軸足はファンク、ソウルジャズ、モードやフリー的ジャズであり、その根っこには強力なブルースフィーリングが流れている。

そのようなサウンドは、結果としてポリティカルでスピリチュアルなトーンをまとうことになり、ジャズというコトバだけでくくるよりは、ブラックミュージックとしかいえないような濃厚空間を体感できる音楽である。

ブラックジャズは、6年間の運営のあとジーン・ラッセルの死去でいったんは終了した。その間、20枚のアルバムをリリースしている。収録されている楽曲の中でとりわけダンサンブルなナンバーが日本ではクラブシーンでもさかんに取り上げられている、という話だ。

2013年現在、ジェームス・ハルトゲというブラックジャズの大ファンだった人が権利を買い取り、オーナーとして復活させている。そのあたりの事情は、公式サイトに詳しい。

ファンク、ソウルジャズ、モード、そしてスピリチュアルジャズ。このあたりの要素が、最新型ジャズとして結実しているのが、以前取り上げたロバート・グラスパーではないかと私は思う。
実際、このブラックジャズが活動していた時期というのはまだヒップホップ誕生以前であり、その胎動を促したとも思えるほどのDNA的つながりを、ブラックジャズのサウンドからは濃厚に感じる。

そのレーベル名からも感じられるように、とてもメッセージ性のつよい音楽である。ほとんどのが曲がインストだが、聞こえてくるのは熱いメッセージのようなサウンドだ。

常にブラックミュージックは社会の底辺と繋がっており、現実的な欲望と抑圧をエネルギーとして成長してきた音楽である。それは、ブラックミュージックの起源が、農作業を強いられてきた黒人奴隷が仕事場で歌っていたフィールドハラーと、それが引き継がれ、人種差別環境の中で個の自由を歌ってきたミシシッピデルタを初めとするブルースやゴスペルにあるからに他ならない。

常に社会的な因子を抱え込むからこそ、欲望は力と性を欲しながら外部へとエネルギーを放出し、抑圧は享楽へと姿を変えて現出していく。それが、変容しつつ、ブラックミュージックはブルースやゴスペルからジャズ、ソウルへと進化していきながら、ヒップホップへとたどり着いた、と私は感じている。
ブラックミュージックが常にエロとダンスを放出しているのは、必然なのだ。

そのように、ブラックジャズは今も脈々と生きている。インディペンデントレーベルでありながら熱烈なファンを増やし続ける漆黒のグルーヴ。
それは、無垢なブラックミュージックなのだ。



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