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jazz night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
媚びないジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。

第80回
Fight Against Babylon
New Zion Trio



ファイト・アゲインスト・バビロン
ニュー・ザイオン・トリオ
撰者:平田憲彦



Fight Against Babylon
New Zion Trio

【Veal Records のCD情報】
【Tribe のCD情報】
【DiskUnion のCD情報】

まさしく『Jazz meets Reggae』というコトバがぴったりの、レゲエをやったジャズアルバム。ジャマイカン・ダブ・ミュージックがジャズになるとこんなに気持ちがいいんだと、恍惚状態になる。フェンダーローズの緩くふわふわしたサウンドやアンビエントなアコースティックピアノ、シャキッとしたドラムとベースが抑制されたレゲエビートを刻むかっこよさ。

1. Slow Down Furry Dub
2. Niceness
3. The Red Dies
4. Gates
5. Hear I Jah
6. I Shense
7. Lost Dub
8. Fire Blaze

Jamie Saft- piano, Fender Rhodes
Larry Grenadier- acoustic bass
Craig Santiago- drums

録音:2011年
キングストン(米国ニューヨーク州)
レーベル:Veal Records



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ひとつの音楽の話をしていると、そこに出てくるミュージシャンやら時代性やら楽曲やらの話題から話がどんどん違う方向に行ってしまうことがよくある。当コラムの執筆者、吉田さん曰く「音楽の横滑り現象」と実に的を得た名言があるが、それはまさに音楽とは垂直にも水平にも繋がっているという証左なのだろう。

たとえば聴いているジャズがブルースをやっていたりすると、話題はかなりブルースに横滑っていく。気がついたらボブ・ディランに話題が飛んでいる、なんてことはよくある。
『Fly Me to The Moon』がかかっていたら、おそらく宇多田ヒカルに滑りながらリチャード・アベドンにたどり着いている。私の場合は、だが。

それはきっと、ジャズとは、あらゆる音楽を飲み込み、深く消化し、プレイヤーが意のままに再創造できる万能フォーマット、無限のリサイクルシステムだからなのだろう。

優れたプレイヤーが演奏すれば、どんな曲でもジャズになってしまう。バッハのゴルトベルク協奏曲ですらジャズになってしまうのだ。
原曲のエッセンスを残しながら、ジャズは音楽に新たな衣裳をまとわせてステージに登場するのである。

今回の横滑りは、ハービー・ハンコックの恐ろしくカッコいいエレピに端を発して、ジャズのエレピ巡りにズルズルと滑りまくり、なぜかレゲエにたどり着いた顛末である。



偶然新しい音楽に出会うということは珍しくない。もちろん実は偶然などではなく必然なわけだが、そういう時は心躍る瞬間であり、宝物を見つけたような喜びに満たされる。

今回紹介するアルバムは、まさに前述したとおりジャズの無限ともいえる吸収力が導いた横滑りによって出会えた奇跡的な作品。おそらく世界で初めてだろうと言われている『レゲエをやってるジャズ』のアルバムだ。

ジャズでは典型的フォーマットであるアコースティック・ピアノトリオ。
3人の名前は聞いたこともなかったし、彼らの音も背景も何も知らなかった。ジャズのエレピ・ナンバーを探し回っていたときに偶然1曲だけをyoutubeで耳にした横滑りである。

それは、このアルバム5曲目に収録されているナンバー『Hear I Jah』であった。フェンダーローズの怪しげにスウィングするアンビエント感あふれたサウンド。

それにしても気持ちいい。ゆるゆるなのだが、芯があってメリハリが効いている。あの誰もが知るレゲエのリズム。ドラムとベースが禁欲的なまでのストイックなビートを繰り出し、ローズが縦横無尽に音世界を作る。まるで絵画を音にしたかのような世界。洗練された美しさに酔いしれてしまった。

ジェイミー・サフト(アコースティックピアノ、フェンダーローズ)
ラリー・ゲレナディア(ウッドベース)
クレイグ・サンティアゴ(ドラム)

彼らは、『New Zion Trio』というバンド名でアルバムを出していた。それがこの『Fight Against Babylon』という作品だ。
Zionとは、レゲエの世界でいう理想郷のような意味で、Babylonとは不平等や権力がはびこる暗黒の世界である。ジェイミー・サフトたち3人は、理想郷を目指すチームとして暗黒世界に戦いを挑む。そのコンセプト的な音楽がこのアルバムということなのだろう、おそらく。
バンド名もアルバム名も明快なコトバで貫かれて潔い。分かり易すぎるコトバを選ぶのは時として確信犯だ。

私を彼らの世界に引きずり込ませた5曲目の『Hear I Jah』以外はすべてアコースティックピアノのトリオである。全曲ジェイミー・サフトのオリジナルで、4ビートの曲は1曲もない。ブルースといえるナンバーもない。美しいポップスに代表されるような親しみやすいメロディラインも皆無だ。

強いて言えば、セロニアス・モンクが生み出す曖昧模糊とした世界観やハービー・ハンコックをもっと屈折させたような音世界、ボビー・ハッチャーソンをもっとディープにしたような浮遊感覚。しかしメロディはとても美しい。ニューエイジ的ともいえるし、新主流派的ともいえる。

そして、ダブと呼ばれるサウンドに近いアンビエントなフィーリング。決定的なのは、アルバム全体を通じて響き渡るレゲエビート。しかし、ジャズなのである。
ビートもピアノも抑制され、クールでありながらとても熱いサウンド。

ジェイミー・サフトはプリペアド・ピアノも弾いている。そのせいか、どことなくジョン・ケージのような現代音楽的ニュアンスも漂っている。ただ、現代音楽的な壊れ具合ではなく、ぎりぎりのところで調和が取れてるから緊張感ある緩さなのだ。

プロデュースはジェイミー・サフトとクレイグ・サンティアゴが担当。録音とミックスはジェイミー・サフト。アルバムアートワークはクレイグ・サンティアゴと、かなり身内の手作り感覚で作られたアルバム。

ジャズという音楽がもつ多様性に改めて感動しつつ、レゲエをジャズでやったこのトリオ、素晴らしいアルバムをリリースしてくれたと感謝している次第である。



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