BANSHODO_Logo
gray line

Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

gray line
第9回

シティ・ゲイツ
ジョージ・アダムス&ドン・プーレン・カルテット
撰者:大橋 郁


【Amazon のCD情報】

この度の東北地方太平洋沖地震で、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災されました方々に心よりお見舞い申し上げます。

私がまだ20代で独身の頃、転勤で3年間、福島県福島市に住んでいたことがある。まだまだ無茶もした若かりし頃だ。その頃、町中にあった「ミンガス」というJAZZ喫茶によく行った。この店のマスターの松浦哲さんには本当にいろいろなことを教えて頂いた。
先日、ミンガスのホームページを見つけ、このお店が1979年の開店以来30年を超えてなお健在であることを知った。
福島在住時代にあれほどお世話になったのに、福島を離れてから再訪したのは1度か2度で、それきりのご無沙汰であった。
今回は、当時松浦さんに教えてもらって、今なお私の大好きなグループであるGeorge Adams 〜 Don Pullen Quartetについて書きたい。このグループのレコードは、全てがお薦めなのだが、取り敢えずの一枚ということで、City Gatesを取り上げたい。

さてJAZZの場合、通常は、「○○のリーダーアルバム」とか、「○○と△△のセッション」といった言い方が多いのだが、このグループでは「バンド」ということばを敢えて使いたい。
このバンドは、一人ひとりの個性もさることながら、4人の「バンド」としてのまとまりが機能していたように思えるからである。つまり、レコードから聞こえてくる音は「バンド」としての音であると思う。

一般に音楽は、どんなに腕利きのミュージシャンを集めてきたからといって、いい音楽になるとは限らない。
サッカー界で、スペインの銀河系軍団と呼ばれるレアルマドリードがあれ程の高額を使って、各国の至宝と思われる代表選手たちを集めてきても、リーグ優勝は約束されている訳ではない。チームの士気や、全員の心が同じ方向を向いているかどうかによって、メンバー個々の実力が二乗にも四乗にもなり、ときに大爆発することがある。だから、当たり前ではあるが、レアルはいつも優勝争いには関わるが、優勝は約束されていない。レアルでさえ、まさかと思う伏兵に負けることがある。
これと同じで、手練れのミュージシャンが参加していることが名盤の条件ではない。いろいろとコンサートやライブを見に行って「いいバンドだね」と爽やかに思えるケースというのは、メンバー全員の、曲に対する思い入れが同じであるとか、経歴に同じ背景を持っているとか、目指そうとして頭の中に描いている音楽が同じであるとか、何かそういった条件が重なり合っているのだろうなあ、と思う。

さて、このバンドのメンバーは、次の通りである。

George Adams (ts) 1940 -1992、Georgia州Convington生まれ
Don Pullen (p) 1941-1995、Virginia州Roanoke生まれ
Cameron Brown (b) 1945-、Michigan州 Detroit生まれ
Dannie Richmond (ds) 1935-1988、New York州 New York生まれ

ベースのCameron Brown以外は、チャールス・ミンガスのバンドにいた、ミンガス学校の卒業生たちであり、当然ミンガスやミンガス・グループで共にしたローランド・カークなどの音楽の影響を受けている。
一般的に彼らの音楽はよくアバンギャルド的な扱いをされるが、私はゴスペルルーツに根差し、黒人音楽の伝統に乗っ取った音楽を創る、本当につくづくカッコいいバンドだと思う。
ジョージ・アダムス(ts)の、時に狂ったような雄叫びのようなフレーズや、ドン・プーレンの右手の拳で打楽器のように高音部を叩き付ける奏法は、決してアバンギャルドを志向しているのではなく、あくまでルーツ音楽に思いを込めて演奏する間に激情が高まりすぎて、その延長上にほとばしった結果に思える。

彼らの演奏からは、ハードな曲からは強い気迫と情熱を、バラードからは抒情性と祈りのような敬虔さを感じる。AdamsもPullenも、共通しているのはどの演奏を聞いても手抜きがない、ということだろうか。誰もが知っているスタンダードナンバーを並べて、JAZZっぽく適当に流すことはいくらでも出来るが、彼らがやっている音楽は、そもそも手抜きとは無関係で、情熱なしには演奏し得ない音楽なのだ。そして、そういう音楽を演奏したい、伝えたい、表現したい、という思いがこの4人に共通していてそれが一本の太い糸となり、この「バンド」としての音になっているのではないか、と思えて仕方ない。

さて、音楽はハードで時にフリーキーになる曲調のものと、ゴスペルバラード風のものとに大別される。どちらも紛れもなくこのグループの音であり素晴らしいのだが、彼らが最も聞かせたかったのは、ゴスペルバラードのNobody Knows the Trouble I've Seen に違いない。 彼らの演奏は、バラードにこそ自分達の立っている位置や背景、ルーツのようなものへの愛情とリスペクトがあるように思える。
他のアルバムからも、秀逸なバラードを幾つか挙げておきたい。

Song Everlasting (Album "Song Everlasting" Blue Note BLJ-46907 ,
Or Album "Live at Montmartre" Timeless SJP219))
God has Smiled on Me (Album "Melodic Excursions" Timeless RJL-8055)
Solitude (Album "Live at the Village Gate" )

これらのバラードは何度聞いても新しい発見がある。

20代の筆者が福島に赴任したのは1986年のことだったが、1983年にAdams / Pullen Quartetは、福島に来て、地元紙の新聞会館で演奏したそうだ。3年遅れだったので、筆者はついに見ることが出来なかった。
4人のうち、ベースのCameron Brown を除く3人は既に鬼籍に入り、このバンドの音は永久に聞くことは出来なくなった。が、私にこんなにも素晴らしいJAZZバンドがあることを教えてくれたのは、ミンガスのマスターの松浦さんであり、私にとって福島はGeorge Adams - Don Pullen Quartetと出会った思い出の町である。
死ぬまでに一度は見たかったバンドであり、見れなかったのは痛恨であるが、今は彼らの残してくれたレコードを通して、こんなにも素晴らしい音楽をこの世に残してくれたことに、ただひたすら感謝するのみである。
最後に、福島を始め今回の地震で被災した町の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

JAZZ CAFE「ミンガス」
福島県福島市大町1−7
電話:024-522-5341
営業時間:19:00〜深夜
ウェブサイト:http://www.jeynet.ne.jp/~mingus/




gray line Copyright 2010- Banshodo, Written by Iku Ohashi, Sanshiro Matsui, Teruyuki Yoshida, Noriiko Hirata, All Rights Reserved.