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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第2回

イッツ・タイム
ジャッキー・マクリーン
撰者:松井三思呂


【Amazon のCD情報】

三週間ほど前、第1回を担当した大橋さんからメール。
「万象堂さんのHPでJAZZアルバム紹介のコラム、オレと一緒にやらへん?」
私を黒人音楽の深い森に導いてくれた導師さまのお誘いとあればと、二つ返事でOKしたものの、彼の原稿を見て愕然! ごっついアカデミックにブギウギピアノを評論してるやないの!
どうしようか悩んだが、このコラムの方向付けは、『歴史的名盤はスルー』、『読み物として風変わりで特徴のあるものにする』、『比較的容易に入手出来るDISCを選定』、『各コラムニストが自分の音楽の楽しみ方の中で、これまでどんな音楽を聞いてきたかを紹介』ということなので、私の最初の1枚は名門BLUE NOTEからJackie Mclean先生の「It's Time」(BN 4179)を。

選定理由は後まわしにして、このアルバムに遭遇するまでの私のJAZZ自伝を少々。
Deep PurpleやLed Zeppelinが大好きだったロック少年のJAZZデビューは、高校1年で大橋導師に連れていってもらった元町の名門 JAZZ喫茶「さりげなく」。
お店の扉をあけると、コーヒーと煙草の匂い、そして大音量の訳のわからない音。鳴ってたのはColtraneの「A Love Supreme」(初体験にしてはキツイ!)。まさに中上健次の「破壊せよ、とアイラーは言った」の世界。なにかしら反体制なものに憧れていた少年は、この原体験を契機に、三宮や元町の「PISA」、「Knee Knee」、「バンビー」、「とんぼ」、「 クル・セ・ママ」、「木馬」、西宮北口の「DUO」(現Corner Pocket)、「OUTPUT」などのJAZZ喫茶に巡礼を重ね、「スイングジャーナル」、「ジャズ批評」をバイブルとして、ジャズ道に精進することになる。

大学生になると、バイト代の大半をレコードにつぎ込み、いっぱしのコレクター気どりで、BLUE NOTEに至っては大好きなハードバップ期である4001番から4100番までアルバムタイトルとリーダーを暗記し(鉄ちゃんが駅名や車両の番号を覚えるのと一緒!)、「4014番までは盤中央ラベルのアドレスが"47 WEST 63rd・NYC“表記で、溝があるのがオリジン」などと生意気に講釈する始末。

そんなある日、いつものようにレコード発掘の大阪ミナミコース・・・。
当時の私のレコハンは、大阪キタ・大阪ミナミ・三宮〜元町の3コースに分かれ、レコ屋をまわる順番まで決めていた・・・へ出かけたところ、これといった収穫もなかったので、いつもはパスする店(ROCK中心でJAZZアルバムが非常に少ない店だった)にふらりと入店。床に無造作に置かれた「百円セール」の段ボール箱のなかに、ビニール外袋もコンディション表示もないレコが20枚ほど。「クズ盤ばかりか・・・あああ!!!」、頭の中を閃光が駆け巡った。そこにはWants Listの上位に鎮座していた「It's Time」のバリバリのオリジナル盤が、それもジャケ、盤ともにmintコンディションで。「新宿のディスクユニオンやったら、一万円するかも」と不埒なことを考えながら、レジの兄ちゃんに百円を投げつけるや、盤を抱えてダッシュで店を後にしたことは言うまでもない。

という訳で、選定理由は「私の持ってるJAZZアルバムのなかで最もコストパフォーマンスが高い」です。アルバムは1964年という空気感を反映して、これまでハードバッパーとしてわが世の春を謳歌してきたMcleanから、「今こそ、この瞬間に」(It's Time)とばかりに新しいMcleanを打ち出していこうとする姿勢が感じられる内容。パーソネルは御大の他に、初レコーディングのトランペットCharles Tolliver(録音時若干22歳)に、Herbie Hancock(p) Cecil Mcbee(b) Roy Haynes(ds)という鉄壁のリズム隊。演奏曲目はMcleanが3曲、Charles Tolliverが3曲のオリジナルを提供している。
今聴き直してみると、ブルース、バラード、モード風とバラエティに富んでおり、Mclean先生は終始肩の力の抜けた演奏、Charles Tolliverはリズム隊に煽られながらも、閃きのあるソロを展開し、後年コマーシャリズムとは無縁のStrata-Eastレーベルを設立するに至る心意気をここでも垣間見せている。また、随所にHancockが個性的なソロを展開しており、これだけでも一聴の価値あり。

ところで今でも、持っていないBLUE NOTEの1500盤台と4000盤台は、全部アナログで大人買いしたい衝動に駆られる。その理由は演奏の質とRudy Van Gelderの録音ももちろんである
が、Reid Milesのデザインと、Francis Wolffの写真によるジャケットカバーの魅力も大きい。
Reid Milesお得意の幾何学的図形、模様、文字の繰り返しパターンによるデザインのなかでも、本作は傑作のひとつに思える。ちなみに、暇にまかせて「!」マークを数えたら、244個ありました! また、コラムを書きながら、いろいろWEBをチェックしていたら、ユニクロでBLUE NOTEのTシャツを販売していることを発見。そのうえ、なんと現在販売中の12枚のなかに、この「It's Time」もはいってます! 4枚もMclean先生のアルバムが選ばれてるし、4月には有名どころの「Cool Struttin'/Sonny Clark」(BN1588)や「The Sidewinder/Lee Morgan」(BN 4157)、渋めの「J.R.Monterose」(BN1536)、「Speakin' My Piece/Horace Parlan」(BN 4043)も発売されるみたいで、アルバムより先にTシャツを大人買いしちゃいそう。そこで、これもTシャツにして欲しいレタリング系デザインの傑作アルバムを紹介したい。

「Us Three/Horace Parlan」(BN 4037)、このアルバムは小児マヒのために右手の薬指と小指が全く使えなかった故に、左手でメロディを奏でたHorace Parlanのアーシーな魅力が爆発しており、表題曲「Us Three」におけるGeorge Tuckerの強靭なベースと、Al Harewoodのブラシは鳥肌ものである。似たようなアルバムタイトルの「We Three」(「It's Time」のタイコRoy HaynesのPRESTIGE盤(NEW JAZZ 8210))もアーシーさでは甲乙つけがたい愛聴盤。

それではこの辺で、「It's Time」のベースCecil Mcbeeが、同名のオネエ系ファッションブランドを告訴したといったウソのようなホントの話で、三宮の音バーの夜を一緒に過ごしている、私のもう一人の師匠である吉田さんにバトンタッチ!


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