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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第151回

ノース・シー・ハイライツ
イントリオダクション
撰者:大橋 郁


【Amazon の商品情報】


オランダの名門ジャズレーベルである「タイムレス」から、再発盤として「タイムレス・オリジナル・アルバム・ストレイト・リイシュー・シリーズ」が1,080円という買いやすい値段で発売されている。ファラオ・サンダースの「アフリカ」やシダー・ウォルトンの「イースタン・リベリオン(1〜4)」などの質の高い名盤の他にも、テテ・モントルー、アート・ブレイキー、ジョージ・アダムスなどの超一流アメリカ人ジャズメンの録音が多く、重要レーベルのひとつであるといっていいだろう。

さて、そのカタログの中から今回紹介するのは、「イントリオダクション」というタイムレスの地元オランダのピアノ・トリオのアルバム「ノース・シー・ハイライツ」だ。もう一枚のアルバム「イントリオダクション」と並んでこれら2枚がシリーズの一環として日本で発売されていることを、とても嬉しく思っている。
というのも、このグループがその凄まじい程の高い実力の割には日本ではほとんど知られていないと思うからだ。イントリオダクションとは、オランダの白人ピアニスト、ハリー・ハッペル(p)を中心としたピアノ・トリオである。グループ名のイントリオダクションは、恐らくイントロダクション(introduction)と、トリオ(trio)を掛け合わせた造語と思われる。



初めてイントリオダクションを聴いたのは、まだ学生時代の1980年頃のことだったと思う。高田馬場にあったジャズ喫茶「マイルストーン」で、ハリー・ハッペルの弾くトルコ行進曲を聴いたときの印象は鮮烈だった。「トルコ行進曲」と云えば、有名なモーツァルトのピアノ・ソナタ第11番第3楽章である。このトルコ行進曲を、先ずは楽譜通り超高速でひと通り弾いたうえで、これまた豪快なインプロヴィゼーションに突入する。その大迫力とあまりのダイナミックさに呆気にとられてしまった記憶がある。
この体験はとても忘れられるものではなく、機会があるたびにあちこちの中古レコード屋で探し回っていたのだが、ついに見かけることはなかった。

それから30年近く経った2010年頃だったか、ネット上でピアニストのハリー・ハッペルのHPを発見した私は、30年前の強烈な体験が忘れられないとメイルした。すると、メイルを受け取ったハリー・ハッペルは、自分の演奏に遠い異国で感動したファンが永年その体験を忘れずにいたことを意気に感じてくれたのか、CDに焼き直して送ってきてくれた。

「トルコ行進曲」やスティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely」を含む「INTRIODUCTION Live at the Nick Vollebregt's Jazz Cafe」と送ってくれたハリーの直筆サイン。1979年、30歳のときの作品。


ハリー本人が焼いて送ってくれた『Live at the Nick Vollebregt's Jazz Cafe』


ハリー・ハッペルのサイン

約30年振りに聞いてみて、やはりその演奏の完成度の高さに圧倒され、もちろん私の愛聴盤のひとつになった。また、このアルバムにはスティーヴィー・ワンダーの「可愛いアイシャ(Isn't She Lovely)」も含まれているのだが、これまた豪快にスイングする大迫力の演奏。

ハリー・ハッペル(p)の演奏の魅力は、何といってもそのグルーブ感、力強いスイング、分厚いハーモニー、クラシックのバロック風のリズムやフレーズを織り交ぜるセンスの良さ。それに、オスカー・ピーターソンばりの完璧なテクニックでグイグイとドライブする点だろう。また、わかりやすいスタンダード曲以外に、敬愛するオスカー・ピーターソンのオリジナル曲や、オスカー・ピーターソンが取り上げた曲をレパートリーに多く加えているのも特徴だ。

1949年生まれのハリー・ハッペルは、自身のHPによれば独学でピアノを学んだそうだ。1976年27歳の時にこのグループ「イントリオダクション」を結成して以来、ずっとこの形態を守り通してきた。2004年のアルバム「ジェネレーション」以降は、息子のスベン・ハッペルがベースで加わっている。



今回紹介するアルバム「ノース・シー・ハイライツ」は、1982年にオランダのヘーグで開催されたジャズ・フェスティバル「ノース・シー・ジャズ・フェスティバル」でライブ録音されたものである。このジャズ・フェスティバルは1976年の第1回以降、サラ・ヴォーン、カウント・ベイシー、ディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツらも出演している大規模なジャズ祭で、2006年以降は同じオランダのロッテルダムに場所を移して継続開催されている。

「INTRIODUCTION Live at the Nick Vollebregt's Jazz Cafe」同様に、ノリノリのライブ作品であり、観客を巻き込んでスインギーな演奏に終始している。曲目は、「枯葉」や「ラブ・フォー・セール」のようなスタンダード曲、ピーターソンも好んで取り上げたベニー・グッドマンの「ソフト・ウィンズ」、ピーターソンのオリジナル曲「プレイス・セント・ヘンリー」「ナイト・チャイルド」などの他に、ソロ・ピアノによるバラードでエルトン・ジョンの代表曲「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」、スティーヴィー・ワンダーのヒット曲「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」なども取り上げている。

よくまあこれだけエネルギッシュにスイング出来ると思うほどだが、一方で「ユア・ソング」でのソロ・ピアノはとてつもなく美しい。 彼の実力からすればもっと広く聞かれてもいいはずだと思うのだが、その世界的な知名度が今一つなのが残念でならない。

HPのディスコグラフィーによれば、発表しているアルバムは11枚程度。その中には、著名な米人ジャズメンとの共演もあまり見られない。オランダ国内ではラジオやTVで有名なようだが、これまでの共演履歴を見ても、知っている名前がほとんど出てこない。あくまでも、オランダ・ベルギーといった欧州の中の一地域での限定された人気のようだ。しかし、これだけの人がいるとなると、オランダのジャズ界のレベルは相当なものであると考えるべきだろう。



オスカー・ピーターソン、モンティ・アレキサンダー、ジーン・ハリスといったピアニストに影響を受けたと自ら語っており、こういったメインストリームなジャズを好む方々には、ぜひとも聞いてもらいたいアルバムだ。


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