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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第49回

8ビート・ピアノトリオ
オムニバス
撰者:大橋 郁



4ビートが当たり前のジャズのアルバムを聞いていくうち、突然8ビートが鳴り渡ると、幸せ中枢を刺激され、ダンシングムードに包まれる。今回は、8ビートのジャズピアノトリオというテーマに絞って、いろいろな曲を紹介したい。アルバムではなく、曲単位での紹介である。

一般的にロックといえば8ビート、ジャズといえば4ビートだ。しかし、ジャズでも8ビートの曲が沢山ある。代表的なところでは、真っ先に頭に浮かぶのは、リー・モーガン(tp)の大ヒット曲サイドワインダー(アルバム「サイドワインダー」収録:'63年12月録音)あたり、という人は多いと思う。
リー・モーガン(tp)は他にも、同時期に発表したブルーノートの4000番台で、ランプローラー(アルバム「ランプローラー」収録:'65年4月録音)、イエス・アイキャン・ノーユーキャント(アルバム「ジゴロ」収録:'65年7録音)、 コーンブレッド(アルバム「コーンブレッド」収録:‘65年9月録音)など、8ビートの曲を得意とした。
4ビートでなく、8ビートで歯切れよくジャズを演奏するのは、リー・モーガンがパイオニアであろう。これは当時ジャズロックとも呼ばれた。
一方、ピアノトリオでの8ビートジャズといえば、やはりラムゼイ・ルイスが名高い。ラムゼイ・ルイスが残した数多くの8ビートピアノトリオ曲はどれもゴスペル色が強く、今回紹介するものも、どれもその影響の度合いに違いこそあれ、力強く、黒いフィーリングに溢れている。

いったい、8ビートとはいつどうやって出来上がったのだろう。このことについては長らく考えていたのだが、いまだに明確な答えが見つからない。2ビートと4ビートは、云ってみれば大した違いはない。16ビートだって、8ビートを細かく刻んだだけだ。その証拠に16ビートの曲でリズム隊だけが8ビートを刻んでも何ら問題なく、曲は成立する。しかし、4ビートと8ビートは全く違う。ズンチャ、ズンチャと、2拍目、4拍目にアクセントをおいた4ビートをやっていた時代から、どうやってズンズンチャッチャ、ズンズンチャッチャという3拍目にアクセントをおいたリズムに変わっていったのだろう?

答えのひとつがブギウギであることは間違いない。1小節を8拍に刻んだリズムで強靭に打ちまくる。しかし、ブギウギリズムそのものは8ビートではなく、あくまで4ビートだ。このことについて、当コラム執筆者の中で博学の吉田さんに聞いたところ、恐らくはラテン音楽の影響があるのではないかということであった。

8ビートの創造は、偉大な発明でありリズムの革命だった。8ビートとは無縁であったはずのジャズの世界にも影響を与えた。
ジャズロック(8ビートのジャズ)が流行したのは60年代前半〜半ばだが、ピアノトリオにおける8ビート曲はゴスペルタッチの演奏が多いようで、次に何枚か紹介する曲でもほぼ共通してゴスペル色が強い。
それでは、楽しい8ビートピアノトリオを紹介しよう。

1)ケニー・ドリュー
『オール・ソウルズ・ヒア』
【イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ】収録

典型的なハードバップスタイルのピアニストであるケニー・ドリューが、ゴスペルロック風の8ビートの演奏を見せる。高校時代、ジャズ喫茶「デュオ」でこの曲の出だしでアルバート・ヒースのドラムが鳴りはじめると、松井さんと、顔を見合わせてニヤリとしたものだ。このアルバムが録音された'74年当時、ケニー・ドリューはデンマークのコペンハーゲンにあるジャズクラブ「モンマルトル」のハウストリオだった。そこにやってくる様々な外国からのミュージシャンとの共演は多彩であり、スタイルを飛躍させる経験になった、と語っている。
ということは、ケニー・ドリューがずっとアメリカにいたら、もしかしたらこのような素晴らしいピアノトリオアルバムはなかったかも知れない。ペデルセンのベースも大きな魅力だ。「粘り気のあるベース」「ゴツゴツしたベース」「安定したベース」といったありきたり表現では伝えきれない。というか、一曲の中でも局面/局面で対応をしていく驚異的なベースワークである。アルバート・ヒースのバスドラムも魅力。このトリオにおけるドラムとベースは単なるタイムキーパーではなく、全体の音色を豊かにする役割を果たしている。掲題曲のみならず、本当に凄いアルバムだと思う。

2)レイ・ブライアント
『ガッタ・トラベル・オン』
【ガッタ・トラベル・オン】収録

旅行関係のチケットやパンフレットをコラージュしたと思われるジャケットセンスがいい。
何といっても1曲目の8ビート「ガッタ・トラベル・オン」である。
アトランティックから出ている、ソロピアノでのライブ盤「アローン・アット・モントルー」('72年)での一曲目「ガッタ・トラベル・オン」が有名だが、実はここで紹介する方がオリジナル('66年)で、こちらは全く同じバージョンにドラムとベースをくっつけた感じ。というといかにも安直なようだが、力強いピアノで弾くゴスペルロック風の8ビートによる掲題曲が最高にカッコイイ。アーシーな左手は、ドス黒いといってもいいくらいだ。

3)ビリー・テイラー
『アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー』
【アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー】収録

以前にこのコラムでビリー・テイラーの「ワン・フォー・ファン」というアルバムを紹介したことがある。そのアルバムは、「熱い演奏というのとは少し違う、インテリジェンス、上品、華麗で優雅、知性、人間的に余裕を持ったビリーの人柄が滲み出ている演奏」であった。逆にこちらのライブ盤は、熱気ムンムンの名盤だ。
2曲目に代表作である8ビートの名曲「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」が入っている。 ゴスペルロック風の演奏である。「私を縛っているこの足の鎖から解き放たれたらどんな気分だろう」と歌う。ソロが始まると客席からも掛け声がかかり、大いに盛り上がる。この曲は後にニーナ・シモン、ソロモン・バーク、アーマ・トーマス、マリーナ・ショー、シャーリー・スコット、デレク・トラックス・バンドら多数のミュージシャンにカバーされている。アルバム自体、熱い内容なのだが、何といっても「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」に尽きると思う。

4)モンティ・アレキサンダー
『スパンキー』及び『ラトルスネイク』
【スパンキー】収録

何と若々しいジャケットであることか。ビジネススーツに身を包んで、まるで新入社員のように脇目もふらずに真っ直ぐに走ってくる。このジャケット写真こそが、このアルバムの雰囲気や、スタイルを物語っている。ジャマイカ出身のピアニストの1964年の作品。
モンティは録音当時20歳であり、既にオスカー・ピーターソンの後継者のような扱いを受けていたらしい。しかし、全体にビートを効かしたパンチのあるスタイルは、ジャマイカ出身であることと関係あるのかも知れない。こう書くと、勢いだけの直線的なピアニストのような印象を持たれてしまうかもしれないが、決してそうではない。「ウィスパー・ノット」や「リトル・チルドレン・オブ・ペルー」のような繊細な曲ではモンティは細やかな演奏をしており、奥深いアーティストだと思う。
1曲目の「スパンキー」と6曲目の「ラトルスネーク」で、ファンキーな8ビートの演奏が聴ける。ラムゼイ・ルイスの「ジ・イン・クラウド」('65年)に通じるファンキーな内容だ。しかしラムゼイ・ルイスの「ジインクラウド」がビルボード誌のホットテンに現れたのが1965年9月なので、もしかしたら、ピアノトリオによる8ビート作品はこちらが先だったのかも知れない。

余談だが、この人は「リパブリック讃歌」という曲が好きで、私の知っているだけでも6回~7回は録音している。アメリカの南北戦争時に北軍が歌った曲で、日本では「お玉じゃくしは蛙の子」や「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた」という替え歌で、流行した曲である。北軍兵士を褒め讃え、米国の愛国歌のような存在であるこの曲をジャマイカ出身のモンティが愛したのは、米国の生んだジャズ音楽へのリスペクトがあるからかもしれない。

5)ジョー・サンプル、レイ・ブラウン、シェリー・マン
『ファンキー・ブルース』
【ザ・スリー】収録

ジョー・サンプル(p)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)というトリオでL.Aで吹き込まれ、'75年に日本のイーストウィンド・レーベルから発売された。ジョー・サンプルは、ジャズピアニストというよりもフュージョンキーボードプレイヤーというイメージの方が強い。この3人の中では、知名度も最も低いかも知れない。従って通常、好きなジャズピアニストの議論をするときには、滅多に選択肢に入らない。クルセイダーズの一員としての活動が長かったことや、ソロアルバムを出した頃には、既にフュージョンスタイルだったこともあるだろう。しかし、純粋なジャズピアニストとして、もっと評価されていいと思う。私も、ジャズクルセイダーズの大ファンであり、中でもウィルトン・フェルダーは大好きなサックス奏者の一人なのだが、同じくらいにジョー・サンプルのピアノは好きだ。グリーン・ドルフィン・ストリート」「サテンドール」といった曲に続いて、最後に演奏される8ビートの「ファンキー・ブルース」は、直前までジャズスタンダードを演奏していたジャズコンボとは思えない、ロックバンドのように強烈でホットな演奏である。

6)ハリー・ハッペル・イン・シンガポール
『イン・ア・センチメンタル・ムード』
【グルーブ・マーチャント】収録

ハリー・ハッペルは、とにかくスイングしまくるオランダ人ピアニストである。かつては、自己のグループ名をイントリオダクション(Intrioduction)としていた。ピアノトリオのTrioとイントロダクションのIntroductionを引掛けたものだろう。
日本での知名度は決して高くはないが、かつてジャズ喫茶で初めてこの人の弾くジャズアレンジの「トルコ行進曲」を聞いたときには鳥肌が立つ想いをしたものだ。このアルバムでは、スインギーなライブの最後に、エリントンのスタンダードナンバー「イン・ア・センチメンタル・ムード」を8ビートのリズムに乗せて演奏する。このアルバムは全体を通してよくスイングする好内容であるが、最後の8ビート曲でダイナミックに全体を締めくくっている。


その他の8ビートピアノトリオ

上記に書ききれなかったが、この他にも7)8)云わずと知れた9)を初め多くの8ビートピアノトリオが存在する。他にも8ビートのジャズピアノトリオのアルバムを知っている方がいたら、是非教えてください。

7)オスカー・ピーターソン
『ロックオブエイジズ』
【ウォーキングザライン】収録

8)ジーン・ラッセル
『リッスンヒア』
【ニューダイレクション】収録

9)ラムゼイ・ルイス
『ジインクラウド』
【ジインクラウド】収録


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