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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第38回

グリフ&ロック
エディ・ロックジョウ・デイヴィス&ジョニー・グリフィン
撰者:松井三思呂


【Amazon のCD情報】

ラグビーのワールドカップは何とかニュージーランドが優勝し、王国の面目を保ちました。次に晩秋の話題と言えば、大阪秋の陣、平松vs橋下はどちらに軍配があがるのか、興味が尽きないところです。



大橋さんのブギウギピアノで幕を開けた『KIND OF JAZZ NIGHT』も数えること38回、筆者各人が節目の10クール目に突入中である。そこで、この機会に4人の筆者が取り上げてきた作品を少し振り返ってみたい。その前に、本コラムの趣旨をおさらいしておくと、「歴史的名盤はスルー」、「読み物として風変わりで特徴のあるものにする」、「比較的容易に入手出来るDISCを選定」、「各コラムニストが自分の音楽の楽しみ方の中で、これまでどんな音楽を聞いてきたかを紹介」ということ。

各人が紹介している作品を楽器編成で見ると、やはりジャズの王道ピアノトリオが最も多く、12作品がアップされているが、その中身はと言うと、神父さんからキース・ジャレットのライブ盤まで、非常に幅広いラインナップ。ピアノトリオ以外にも、ニューオリンズのブラスバンドあり、ジャムセッションあり、コテコテのテナーバトルあり、その他もろもろと、B級感覚満載で放浪派の面目躍如たるものがある。

私自身ももちろん他の3人のコラムの超々熱心な読者であって、知らなかったエピソードや、紹介されているアルバムを改めて聴き直すと思いがけない発見も多く、本コラムが私のジャズライフに欠かせない存在となっている。ただ、筆者という立場になると、とりあげる作品の選定から、資料や情報の検索、そして文章を捻り出すまで、結構エネルギーを使っている。しかし、ここまできたからには、さしあたり100回を目指して邁進したい気持ちで一杯である。

さて、本コラムの首領、大橋さんは『さんふらわあ JAZZ NIGHT』のプロデューサー。彼からは「さんふらわあ、乗ってよ!」と、これまでずっと誘われてきたのであるが、なかなか都合がつかず実現できなかったところ、ようやく10月21〜23日の行程で、「さんふらわあ ごーるど」に乗船して、JAZZ NIGHTプラス大分周辺ツアー(現地0泊、船中2泊の弾丸ツアー)を楽しんできた。

JAZZ NIGHTの演奏メンバーは、金沢琴美さん(vo)、野江直樹さん(g)、杉本匡教さん(ts)。結論から言えば、ライブハウスなどと違い、船のなかで聴くジャズって、ホント良くてオススメです。また、金曜の夜の往路(大分港到着)と土曜の夜の復路(神戸港到着)とも、メンバーの皆さんとはレストランで一緒に夕食を共にして、いろいろ面白い話も聞けた。ありがとうございました。

次に、今回のツアーの目的のひとつは、湯布院のジャズ喫茶『あーでん』に立ち寄ることであった。『あーでん』という言葉を聞いて、ピンとくる方は相当なオーディオファンですよ。そうです、イギリスの高級スピーカーメーカーであるタンノイの名器「アーデン」です。お店にお邪魔する前に、JBLのパラゴンが聴けるなど、ある程度の情報はHPでゲットしていたのだが、行ってみてホントに驚いた。

お店は大分自動車道の湯布院ICのそば、湯布院の中心地からは少し離れていて、高台の別荘地という雰囲気が漂うなかにあった。どうみても、個人の邸宅か別荘という感じの造りで、玄関を入ると靴を脱いで、リビングルームに通された。リビングは音響に配慮したらしく、2階まで吹き抜けで、正面の壁際に泣く子もだまるJBLパラゴンが鎮座していた。

女性の店主さんと少しお話をさせてもらったところ、叔父さんが相当なオーディオマニアで、その叔父さんから受け継いだ機器でカフェを経営されているらしい。私が判ったのはパラゴンを鳴らしているマーク・レビンソンのプリアンプと、マッキントッシュのパワーアンプぐらいで、その他の機器は全く知らないものばかり。午前中はパラゴンの両脇のタンノイRHRを鳴らし、プリアンプとパワーアンプの組合せも違ったものを使うというこだわりなど、ハイエンドのオーディオファンなら垂涎ものでしょう。

我々はパラゴンに近い正面の通称「王様の席」、「女王の席」に座り、アイスコーヒーなどを注文して、何かリクエストをということに相成った。音源はアナログではなくCD。CD棚を見せてもらい思案した結果、パブロレーベルの旗揚げライブ「Jazz At The Santa Monica Civic'72」のエラ・フィッツジェラルドのヴォーカルサイドをチョイス。パラゴンから流れるノリノリのカウント・ベイシー・オーケストラとエラ、最高でした。因みに、このCDで大橋さんが一番好きな曲は「Shiny Stockings」とのこと。確かにエラのスキャット、鳥肌ものです。ただ、パラゴンの音の臨場感は素晴らしかったが、湯布院郊外の瀟洒で透明な空気感のためか、音量がやや小さくて、「ジャズ喫茶」と言うよりは「ハイエンド・オーディオ・カフェ」という感じであった。

『あーでん』を辞して、別府に向かう車のなかで、大橋さんとそんな話をしていたところ、彼がふとつぶやいた言葉、「ケルンをかけてもらった方が良かったかなぁ〜 。」ここからがこのコラムの第2章の始まりである。「ケルン」とは、もちろんキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」。

高校時代、大橋さんと私は西宮北口の『DUO』(現『Corner Pocket』)に足繁く通った。『DUO』は当時数多くあったジャズ喫茶のなかで、特に居心地が良いお店であった。それはジャズ喫茶の顔であるスピーカーがパラゴンであることに加え、マスターのかけるレコードの趣味がバツグンで、全くハズレがなかったから。

あれは高校1年の中間か期末の試験期間中であったと思う。学校からまっすぐ家に帰って、次の日の試験に備えて勉強するという勤勉さを持ち合わせていなかった我々は、学校から早く解放されることを良いことに、開店時間から『DUO』にお邪魔。そして、マスターがその日最初のレコードをターンテーブルに載せる前に、「マスター、ケルン・コンサートかけてください!」

当時、我々は完全に「ケルン・コンサート」にハマっていた。完全即興のライブ演奏であること、平田さんも第32回のコラムで触れられているが、あの唸り声に演奏者としての真剣味を感じていたこと、スイング・ジャーナルなどのジャズ・クリティックにおいては圧倒的な賞賛の反面、辛辣な批判もあったことなどなど……。何れにしても、極度に透明感を持ったピアノの音が素晴らしく、それをパラゴンというスピーカーの王様が再生してくれる。という訳で、何はなくとも「ケルン」であった。

しかしながら、マスターの答えは我々を軽くいなすように、「ケルンかけるけど、その前にこれも聴いてみて。」そのアルバムが今回紹介する「グリフ&ロック/エディ・ロックジョー・デイヴィス&ジョニー・グリフィン・クインテット」。

今でもその時のことは良く憶えている。「ケルン」とは全く違う真っ黒なジャズが我々を取り巻いていた。メンバーはジョニー・グリフィンの名前をジャズ雑誌で知っていたぐらいで、エディ・ロックジョー・デイヴィスやジュニア・マンスは全く知らなかった。その後、グリフィンにハマり(今でもアップテンポの早吹きならば、ロリンズやコルトレーンよりグリフィンだと思っている)、ロックジョー・デイヴィスやジュニア・マンスにもハマっていくことになる。そのあたりはまた別の機会に。

今回このコラムを書くにあたって、大橋さんと久しぶりに『Corner Pocket』にお邪魔させていただいた。非常に残念なことだが、マスターは4年前に急逝され、今はマスターの奥様が中心になって、金、土、日、月の午後3時から10時まで営業を続けられている。また、関西若手ミュージシャンの貴重な演奏の場として、週1回以上ライブも催されており、頭が下がる思いである。


Corner Pocket店内(撮影:松井)

お店に伺って、とても驚いたことは、我々が足繁く通っていた頃とほとんど何も変わっていないことであった。雰囲気、コーヒーの香り、壁のミュージシャンのサイン、・・・、そしてパラゴンも。奥様に「グリフ&ロック」のエピソードを語ると、目を細めながら、「マスター、グリフィン好きでしたものね」と仰って、レコードをかけていただけた。

パラゴンから飛び出すぶっといテナーバトルや渋いピアノソロに魅了され、大変幸せな気分になって、お店を後にした。今、「ジャズ喫茶」がめっきり減ってしまい、「ジャズ=お酒」という構図になっているように感じる。そのようななか、『Corner Pocket』はいろいろな意味で貴重な存在だと思う。(※その後、2012年9月3日に閉店しました)

今回のコラムはこれまでとは違い、私のブログのようなものになってしまいました。でも、たまにはこんなものもイイですよねえ!


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