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束芋 〜断面の世代〜
2010年7月10日〜9月12日
大阪国立国際美術館

大阪市北区中之島4-2-55
06-4860-8600






束芋〜断面の世代〜、または、欲望の回廊



大阪中之島にある国立国際美術館で開催されている『束芋〜断面の世代〜』。会場に足を踏み入れると、鑑賞者は『世代』と呼ばれる得体の知れない時間の塊を感じることになる。

作者である束芋が名付けている『世代』とは、本人のコメントによれば
〜『団塊の世代』に対して私の世代(大雑把に1970年代生まれ)を『断面の世代』と勝手に名付ける。(青幻社刊図録より)〜
とある。

『世代』とは観念である。切れるはずもない時間の流れをあえて無理矢理区切ることで、あたかも固まりとなった時間があるかのごとく正当化する欺瞞である。しかしそれは、人が生きていかねばならない困難に対して形作られる避けることの出来ない欺瞞でもある。
それは束芋自身が『個への執着』と呼ぶことに起因するとおり、自分を集団の中でとらえて正当化しようとする弱さの現前だ。『世代』を拒絶することも、『世代』を受容することも、いずれにしても『世代』を認識した時点で『個』の正当性を周辺から保守しようという受動的な意識である。

束芋は、自らの存在を自身の親との関係性の中で客体化し、自身に眠っていた個の意識を覚醒させるきっかけとして『世代』という観念に着目した。『世代』を具現化せせることで『世代間の断絶』をも表層化させ、自身の世代と自身の個に輪郭を与えることが出来る。そういうコンセプトで作品は作られていっている。
では、その『世代』をいかにして具現化させるのか。あるはずもない時間のくくりを、どうやって目に見えるものにしていくのか。それを束芋は、『団地』に着想を得たのだ。

団地とは、1960年代の高度成長とともに日本中に増殖した集合住宅である。それは、たとえばヨーロッパの集合住宅とは似ても似つかない代物だ。中庭があるわけでもなく、共通のリラックススペースもなく、ましてや美しい外見も備えていない。コンクリートのかたまり、画一的な間取り、そして狭い部屋。暗く冷たい階段と狭いベランダ。団地に住んだことのある多くの人ならすぐにでも思い出すだろうあの、人間性を感じにくい建物の羅列。

私も小学生の頃は団地で育った。束芋が実際に団地に暮らしたことがあるのかどうかは知らないが、団地にまつわる記号を、束芋の表現する『世代』認識は、実にうまく具現化されている。

集団の中の個、画一性の中にうごめく自意識への執着、グロテスクな人間の日常、そういった薄気味の悪い人間の、多種多様で生々しい欲望をひとまとまりにしたものとして、団地というメタファーを用意したのである。

では、団地をどう表出させることでグロテスクな世代を表現させるか。それを束芋は、『スライスする』という手法を採った。つまり、断面を見せるということである。
束芋によってえぐり出された団地の断面は、そのまま肉体の断面さながらに内臓があらわになり、団地内部にうごめくエゴイスティックな塊をさらけ出す。

スライスされた団地は、束芋によってそこで生きているはずの人間の気配を消され、臓器をもった肉体として団地の姿がさらされるのだ。

それが、『アニメーション』という手法と共存しながら展示会場の巨大な空間を支配し、まるで体内に入り込んだような錯覚を呼び起こす。我々体験者は、そのあからさまな世代の醜さを展示会場の空間をもって体感することになる。そして、あまりにもリアルなその醜さにどこか郷愁を覚え、どうやったって『世代への呪縛』から逃れることの出来ない自己を思い知ることになる。

グロテスクな過去は、グロテスクな未来とシンクロしているかのようだ。

『団地の断面』を通じて『世代の断面』を表層化させた束芋は、続く展示会場の回廊で、驚くべき絵巻を見せ始める。ドローイングで描かれた小説の挿絵であるはずのスケッチはむやみやたらと接続され、肉体がまるで機器となってつながっているかのようなグロテスクさを装って現実を遊離し、性的な幻惑へと鑑賞者を引きずり込もうとするとする。

暴力的なまでに肉体は分断され、鑑賞者は最後の部屋へと移動する仕掛けだ。

世代の断面を泳いできた鑑賞者は、生命の誕生と終焉ともいえる水の中へと誘われる。

世代を表現した団地から、エロスの幻惑へ続き、生と死への幻想を体験するという大がかりな展覧会、まるでお化け屋敷かとも思えるギミックに満ちているが、人の欲望が回廊の中で浮遊し、鑑賞者は日頃固定化された自己の観念に対して揺さぶりをかけられるだろう。美術体験としておすすめだ。
そうはいっても少し詰め込みすぎかもしれない。しかし、団地だけを展示したのでは、束芋のグロテスクな視点を表現しきることは難しかっただろうから、この構成は良くできていると思う。

既成観念に対して批評精神で作品化していくその表現力。体験するに越したことはない。是非会場に足を運んでもらいたい。


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