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ハルとユウ

著者:
ひらたのりひこ 文
なかむらたえ  絵

定価:672円
(本体640円+税)
A6変形判(約140ミリ正方形)
上製本、24頁、オールカラー

ISBN 4-902324-02-4 C8737


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ハルとユウ
編集後記


平田憲彦




絵本は、書物の原点であると私は思う。なぜならば、人類の歴史の中で情報を視覚的に伝達する手段の起源が絵であるからだ。絵から文字が生成したその歴史を考えたら、文字もまた絵のひとつであり、視覚的情報伝達の手段として、絵と文字はつねに不可分であったからである。書物には情報が詰め込まれている。人類が発明した視覚的情報伝達の起源が絵であるのならば、人間の起源としての幼児が手にする情報が、絵本であるのはもっともな話なのだ。

人はだから、昔から今まで、視覚的な情報を絵から得ていく。絵は、発声言語による情報伝達とはまったく違う次元に存する。そのような理由で、絵にはまさに国境がない。

絵本は誰のものか。現実的には、親と子をつなぐ媒体であるので、親子のものだといえる。しかし、本質的には、絵本はやはり子どものものだ。

絵本を手にするためには経済的な制約があり、そこに大人が介在するので子どもは自らがほしいと感じる絵本を、自らの自由な行動によって手にすることはできない。だから、絵本は与えるもの、読み聞かせるものという解釈が一般である。しかし、やはり絵本は子どものものであると思う。親がいくら絵本を読み聞かせようとしても、子どもが気に入らなければ見向きもされない。しかし、子どもが一旦気に入れば、それが親も気に入るかどうかは関係なく、子どもは何度もその絵本を見たがる。

経済的に存在するにもかかわらず、真の読み手はその次元から離れたところにいて、独立した読まれ方をする。また、書物に込められた情報そのものへの欲求がなければ、真の読み手である子どもは決してその書物を開こうとはしない。そういう意味で、絵本は書物の原点をいまも維持しているし、現在の市場性から考えた場合、絵本というものはとても特殊な書物となっている。

この絵本『ハルとユウ』は、そもそも広告制作の現場から誕生した。
当初の目的は、ペットボトルをリサイクルして生地にし、その生地から生まれた制服を販売するソリューションを事業的に展開しているチクマ社の営業案内が元になっている。私はその営業案内としてのグラフィックツールを制作する立場にいた。販促ツールをそのまま作るのでは、メッセージとして弱いと考えた私は、ものが別のものに生まれ変わるという感動を、商品メッセージとして導入し、そのアイデアをベースにクリエイティブツールをつくる企画を考えた。

ペットボトルが生地に生まれ変わり、その生地から服が生まれる。つまり、ペットボトルが服へ生まれ変わるというその物語は、私にとっては経済というより、モノの誕生に関わるドラマに思えて、とても心を動かされたのである。それを表現の核にして、このリサイクルビジネスの販促ツールを構成していきたいと思った。
幸いそのプランは受け入れられ、結果、『ハルとユウ』というキャラクターがドラマとなって、制服のリサイクルソリューションを事業案内できるパンフレットが出来上がった。

完成後数年して、その『ハルとユウ』を絵本にすることを考えた。広告ベースのパンフレットは宿命的に存在期間というものがある。私は、『ハルとユウ』については、その企画ベースが“モノの誕生にかかわる感動”であるので、存在期間に影響を受けない物語であるとの見解を持っていた。だから、多くの子ども達にこの物語を知ってもらいたいと思ったのである。それを具現化するには、本物の絵本として世に送り出す必要があった。
思った時がやる時である。さっそくチクマ社に絵本化に際しての許可を求め、絵を描いてくれたなかむらたえさんに、絵本としてリリースしたい旨連絡した。
そうして、絵本化に向けて動き出した。

ベースは、もともとの販促ツールを担っていた物語であるが、単独の絵本にするには、そのままではいけなかった。それを、たえさんをはじめ、万象堂スタッフやクリエイター仲間たちと議論しながら改訂していき、今の形になったわけである。

とりわけ、たえさんとのやりとりは熱の入ったものとなった。日頃からたえさんは制作について自発的にクリエイションしながら積極的に取り組むタイプのイラストレーターだが、今回は著者の一人ということもあったのかもしれない、いつもにも増して主体的だった。私も結果として著者の一人になっているが、この絵本に関しての取り組みはどちらかと言えば編集者でもあり、自分が二分されたような感覚での関わりとなってしまい、主体性と客観性を行ったり来たりしながらの、たえさんとのやりとりが続いた。

今回のたえさんとのやりとりは、私がこれまで経験してきたスポーツにたとえると、決してキャッチボールではなかった。さながら剣道の稽古に似ていた。どちらかが稽古を付けられているというわけでもない、対等の稽古である。特に、大人向けの販促物として成立していた部分を、子供向けに独立した物語として改訂していく部分に関して、かなり深く突っ込んだやりとりがあり、果たして完成するのだろうかと思う時があるほど、出口が遠く感じたこともあった。
結果として、ストーリーの軸をそのままにしながら、むしろ強化し、販促物が絵本へと生まれ変わることが出来たが、ワインディングロードを走ったが故の心地よい疲労感が残ったともいえる。

私にとって絵本を作ることは長い間の夢だった。私の子どもが絵本をめくりながら成長していったその姿を見て、私もこの子たちが心から楽しめ、やさしく感受性豊かな人に育つことへの助けとなる、そんな絵本を作りたいと、ずっと思ってきたのである。
今回の『ハルとユウ』は、前述のように広告制作から誕生したので変則的であると思うが、それもまた絵本の姿であるのかもしれない。

私は今後も、絵本を作っていきたい。そう思っている。


2006年3月

平田憲彦

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