万象堂 インタビュー編集後記WeBOOK書物迷宮 ご購入万象堂ご紹介お便りEnglish Page

Editor's Note
書海放浪記
2010.03.02

仕事と働くこと



神戸の北野は、三宮の中心的な歓楽街から少し離れた土地ということもあり、比較的穏やかな夜を楽しめる場所だ。音楽好き、酒好きが人を近づけることが良くあるが、毎夜北野で料理の腕をふるっている一人の男とは、あれこれと話が弾む。
彼は料理人として優れているというだけではなく、ギターの腕前も大したもので、時々お手合わせを願う。もちろん、彼が作る料理も時々頂くが、そのたびに私は感動するのだ。
先日、私の父と母をその店に連れて行って楽しい時間を過ごしたが、こんなにうまい料理は初めて食べたと父は感激して、普段は小食なのに全て平らげてしまったほどだ。

ある夜、もう日付が変わってしまった時間に彼と飲んでいて、修業時代の話になった。酒を飲んでいると話があちこちに飛ぶので、その日もどうしてそんな話になったのか良く思い出せない。
彼を育ててくれた師匠はすでに亡く、しかし、彼と話していると、まるで私は、その師匠が目の前にいるかのような錯覚に陥るのだ。彼を通して、その師匠は生きている。私にはそう感じる。

仕事というのは、
と彼は話し始めた。

仕事って、『仕える事』って書くんですよね。

そう彼は言った。
私は頭が真っ白になるのを感じた。

自分は料理を作る仕事をしてます。仕事をしているんですけど、それって、働く事と少し違うような気がするんです。で、好きな事とも違うように思うんです。
まあ、お客様に仕える、ということだと感じてるんですけど、お客様だけに仕えているとも思えない。でも、仕えているという感覚はしっかり自覚してるんですよね。

そう彼は言う。
彼は師匠から、そのような事も含めて、たくさんのことを仕込まれ、学んできたという。

私は彼の話を聞きながら、何度もその言葉を反復していた。
『仕事』とは『仕える事』と書く、か。
なるほど、本当にそうだ。

『仕事』は、英語にするとどうなるんだろうか。
『business』だろうか。しかし、これは日本語で考えると『商売』に近いように思う。
じゃあ、『working』だろうか。いや、これは『労働』だろう。

『仕事』は英語にしにくい日本語なのではないだろうか。

そんな事を思いつつ、彼と飲んでいる時間を幸福に感じた。
その後は、ほとんどの時間をギターとロックの話題で費やしたと思うが、よく覚えていない。
気がつけば4時になっていた。

彼は西へ、私は東へ、それぞれ帰路についたのだ。

(バックナンバーページに続く)


▲バックナンバー

グッデイ

もう一つのウッドストック伝説。『小さな町の小さなライブハウスから』

ほのぼのかわいい。『ハッピーたこファミリー』

天才ブルースマン、ロバート・ジョンソンの全貌。『ロバート・ジョンソン ブルース歌詞集』

リサイクルの心を育む絵本。『ハルとユウ』

一筆の写実。『澁澤華乙画集』

書物でデュシャンを解き明かす。特集『Book of Duchamp』

すばらしきブルース&ゴスペルの世界へようこそ。特集『Ramblin'』

表現の地平へ。特集『もの派』


万象堂著者インタビュー編集後記WeBook書物迷宮通信販売万象堂のご紹介お問い合わせ
先頭へ
サイトポリシー●Copyright(C) Banshodo /Hirata Graphics Ltd. All Right Reserved.